腰・背中の症状
腰痛は、多くの方が一生のうちに一度は経験すると言われるほど身近な症状です。また、背中の痛みやこわばりも、デスクワークや加齢による姿勢の変化などをきっかけに悩まれる方が増えています。しかし「よくあることだから」「年のせいだから」と放置してしまうと、痛みが慢性化して何ヶ月も続いたり、神経の圧迫が進んで足のしびれや歩行の問題につながったりすることがあります。背中の痛みについても、実は圧迫骨折や骨粗鬆症といった病気が隠れているケースがあり、注意が必要です。
一口に「腰や背中が痛い」と言っても、原因はさまざまで、原因が違えば治療の進め方もまったく異なります。まずは正確に原因を突き止めることが、改善への第一歩です。気になる症状がある方は、下の疾患一覧からご自身に当てはまるものをご確認ください。
腰の疾患
・腰椎椎間板ヘルニア
・腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
・ぎっくり腰(急性腰痛症)
・腰椎分離症・すべり症
・筋筋膜性腰痛
・変形性腰椎症
背中の疾患
腰椎椎間板ヘルニア
腰の骨と骨の間には椎間板というクッションがありますが、このクッションの中身が飛び出して神経を圧迫してしまうのが腰椎椎間板ヘルニアです。20〜40歳代と比較的若い世代に発症しやすく、働き盛りの方の生活に大きな影響を及ぼすことがある病気です。
原因
椎間板は加齢や日々の負荷で少しずつ傷んでいきます。そこに前かがみでの作業や重いものを持ち上げる動作が加わることで、椎間板の中にある髄核が押し出され、神経を圧迫してしまいます。スポーツや交通事故がきっかけになることもあります。
症状
腰の痛みだけでなく、お尻から太もも、ふくらはぎ、足にかけて痛みやしびれが広がるのが特徴で、いわゆる「坐骨神経痛」と呼ばれる症状です。前かがみになると悪化しやすく、くしゃみや咳で痛みが走ることもあります。さらに進行すると足に力が入りにくくなり、重症の場合には排尿に支障が出ることもあるため、しびれや筋力低下を感じたら早めの受診が重要です。
治療法
「ヘルニア=手術」というイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、実際には80〜90%の方が手術をせずに改善しています。痛みやしびれを和らげる飲み薬、神経の炎症を抑える注射、そしてリハビリテーションによる体幹の筋力強化や姿勢の改善を組み合わせて治療を進めていくのが基本です。コルセットで腰を安定させることも痛みの軽減に役立ちます。
ただし、足の筋力低下が進んでいる場合や排尿障害がある場合には、早期の手術が必要になることもあります。その際は専門の医療機関を速やかにご紹介いたします。
日常生活での注意
前かがみの姿勢は椎間板への負担が非常に大きいため、できるだけ避けるよう意識しましょう。物を持ち上げる時は、腰を曲げるのではなく膝を曲げて腰を落とし、体に引き寄せてから持つのがポイントです。デスクワークが長い方は、1時間に1回は立ち上がって軽く腰を伸ばす習慣をつけてみてください。痛みが落ち着いてきた後も、体幹の筋力を維持するためのリハビリを続けることが再発予防につながります。
腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
背骨の中には神経が通るトンネル(脊柱管)がありますが、加齢とともにこのトンネルが狭くなって神経が圧迫されるのが脊柱管狭窄症です。60歳以上の方に多く見られ、「最近、長い距離を歩けなくなった」というお悩みをきっかけに受診されるケースが多い病気です。
原因
年齢を重ねるにつれて椎間板が膨らんだり、骨や靱帯が厚くなったりすることで、脊柱管が徐々に狭くなっていきます。腰椎すべり症や変形性腰椎症が背景にあるケースも多く、長い年月をかけて少しずつ進行していく病気です。
症状
この病気で最も特徴的なのが「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」です。歩いているとだんだん足が痛くなったりしびれたりして歩けなくなるのですが、前かがみになってしばらく休むとまた歩けるようになる、という症状を繰り返します。腰を反らすと悪化し、前かがみだと楽になるのもこの病気ならではの特徴で、進行するにつれて一度に歩ける距離がどんどん短くなっていきます。
治療法
まずは飲み薬で痛みやしびれを和らげながら、リハビリテーションで体幹の筋力を鍛え、歩行能力を維持・改善していくのが治療の基本となります。神経への血流を改善する薬が効果を発揮することも多く、こうした保存的治療で日常生活を問題なく送れるようになる方も大勢いらっしゃいます。
一方で、歩ける距離が極端に短くなって外出もままならない場合や、足の筋力低下・排尿障害が出ている場合には、手術を検討する必要があります。その際は脊椎の専門医がいる医療機関をご紹介いたします。
日常生活での注意
腰を反らす姿勢は症状を悪化させやすいため、歩く際はやや前かがみを意識すると楽に歩けます。シルバーカーやショッピングカートを押しながら歩くのも効果的です。また、自転車は自然と前傾姿勢になるため、ウォーキングよりも楽に運動できる方が多くいらっしゃいます。長時間の立ち仕事はなるべく避け、こまめに座って休憩を取るようにしましょう。
ぎっくり腰(急性腰痛症)
「魔女の一撃」とも呼ばれるぎっくり腰は、ある日突然、激しい腰の痛みに襲われて動けなくなる状態です。重いものを持ち上げた瞬間に起こることもあれば、朝の起き上がりやくしゃみといった何気ない動作がきっかけになることもあり、いつ誰に起きてもおかしくない症状と言えます。
原因
腰の筋肉や靱帯が傷んだり、椎間関節に急な負荷がかかったりすることが原因と考えられていますが、実ははっきり特定できないケースも少なくありません。ただ、日頃の疲労の蓄積や運動不足、筋力の低下、長時間の不良姿勢といった要因が背景に潜んでいることが多く、「突然起きた」ように見えても、実は体が少しずつ限界に近づいていた結果であることがほとんどです。
症状
動けないほどの激しい腰痛が突然襲ってくるのが最大の特徴で、立ち上がることも歩くこともままならなくなります。体をひねったり前かがみになったりすると痛みが増しますが、足のしびれは通常伴わないため、しびれがある場合はヘルニアなど別の原因を疑う必要があります。
治療法
まずは痛み止めや筋肉の緊張をほぐす薬で痛みをしっかりコントロールすることが最優先です。痛みの強い部位への注射が劇的に効くこともあります。コルセットで腰を支えるのも有効で、多くの方が数日〜1週間程度で日常生活に復帰できます。
ここで大切なのは、痛みが和らいできたら過度に安静を続けないことです。「怖いからなるべく動かない」という気持ちは自然なものですが、安静が長引くとかえって腰の筋力が落ち、慢性化のリスクが高まります。痛みの程度に応じて、少しずつ普段の生活に戻していきましょう。
予防
ぎっくり腰は一度起こすと再発しやすいのが厄介なところです。普段から体幹の筋力を維持しておくこと、物を持ち上げる時に膝を曲げて腰を落とすクセをつけること、同じ姿勢を長時間とらないことが予防の基本になります。ちょっとしたコツとして、朝ベッドから起きる時は急に上体を起こさず、一度横向きになってから手をついてゆっくり起き上がるようにすると、寝起きのぎっくり腰を防ぎやすくなります。
腰椎分離症・すべり症
腰椎分離症は、腰の骨の一部(椎弓)に疲労骨折が起こる病気で、サッカーや野球、バレーボール、体操などスポーツに打ち込む成長期のお子さんに多く見られます。分離症が進行して腰の骨が前方にずれた状態は「分離すべり症」と呼ばれ、別のタイプとして、加齢に伴う椎間板や関節の変性によって骨がずれる「変性すべり症」もあります。
原因
分離症は、腰を反らしたりひねったりする動作を繰り返すことで起こる疲労骨折が原因です。練習量が増える時期に発症するケースが多く、「成長期のスポーツ障害」の代表格とも言えます。一方、すべり症は分離症の進行のほか、加齢による椎間板や関節の変性によって腰椎が前方にずれることで発症します。
症状
腰を反らした時に強くなる腰痛が特徴で、長時間の立ち仕事やスポーツの後に悪化しやすい傾向があります。分離症だけであればしびれを伴うことは少ないですが、すべり症が進行して神経を圧迫するようになると、足のしびれや痛み(坐骨神経痛)が出てくることがあります。
治療法
分離症の場合、早い段階で見つけることができれば、コルセットで固定して安静にすることで骨がつく可能性があります。逆に発見が遅れると骨癒合が難しくなるため、「早期発見がすべて」と言っても過言ではありません。
すべり症については、リハビリテーションで体幹を鍛えて腰椎を安定させること、痛み止めで症状をコントロールすることが治療の柱です。日常生活に大きな支障がなければ、これらの保存的治療で十分対応できるケースがほとんどです。ただし、足のしびれや筋力低下が進行している場合には、専門の医療機関をご紹介して手術を検討することもあります。
スポーツをされるお子さんへ
成長期に腰痛が2週間以上続いている場合は、「筋肉痛だろう」と自己判断せず、必ず受診してください。分離症は早期であれば骨がしっかりつき、スポーツへの完全復帰も十分に可能です。しかし時間が経ってしまうと骨がつかなくなってしまうため、早めの判断が将来のスポーツ人生を左右します。お子さんの腰痛が気になる方は、お気軽にご相談ください。
筋筋膜性腰痛
筋筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)の疲労や緊張から起こる腰痛です。レントゲンやMRIで骨や神経に異常が見つからないのに腰が痛い、というのがこのタイプの特徴で、実は腰痛の中で最も多い原因の一つとされています。
原因
長時間のデスクワークや立ち仕事、運動不足、筋力低下、不良姿勢、疲労、ストレス、冷えなど、日常生活のさまざまな要因が引き金になります。一つひとつは些細なことでも、それが積み重なることで腰の筋肉に慢性的な負担がかかり、血流が悪くなって痛みやこりが生じます。
症状
腰の鈍い痛みやだるさ、こり、張り感が中心で、朝の動き始めや長時間同じ姿勢をとった後に症状が出やすいのが特徴です。ただ、体を動かしているうちに楽になることも多く、足のしびれは通常ありません。「夕方になると腰がつらい」「忙しい日が続くと悪化する」という訴えが多いのもこの腰痛の特徴です。
治療法
痛み止めや湿布で痛みを和らげつつ、こりが強い部分には注射でピンポイントにアプローチすることもあります。ただし、この腰痛の場合は薬だけで根本的に解決するのは難しく、リハビリテーションで筋肉の緊張をほぐしながら姿勢を改善していくことが治療の要になります。そもそも生活習慣に原因があるケースがほとんどなので、「治療を受けて終わり」ではなく、日常の過ごし方そのものを見直していくことが欠かせません。
予防・セルフケア
この腰痛は、日々の習慣を少し変えるだけで大きく改善する余地がある症状です。まずはデスクワーク中に1時間に1回は立ち上がって腰を伸ばすことを意識してみてください。加えて、ウォーキングや水泳といった全身運動を週に2〜3回取り入れること、入浴時にしっかり体を温めることも効果的です。
自宅でのセルフケアとしては、仰向けで両膝を胸に引き寄せる「膝抱えストレッチ」や、お腹を凹ませて腰を床に押し付ける「ドローイン」がおすすめです。どちらも簡単にできるので、毎日の習慣に取り入れてみてください。詳しいやり方はリハビリの際に理学療法士がお伝えします。
変形性腰椎症
変形性腰椎症は、年齢を重ねるにつれて腰の骨や椎間板が少しずつ変形し、痛みを引き起こす病気です。中高年の方に幅広く見られ、「年齢による腰の変化」に伴う腰痛の代表的な存在と言えます。
原因
長い年月にわたる腰への負担の積み重ねによって、椎間板がすり減って薄くなったり、骨に骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲのような突起ができたりします。こうした変化自体は多くの方に見られるもので、必ずしも痛みにつながるわけではありませんが、変形の程度や場所によっては症状の原因となります。
症状
腰の鈍い痛みや重さ、こわばりが主な症状で、特に朝起きた時や動き始めの痛みが強く、動いているうちに徐々に和らいでいくのが典型的なパターンです。長時間同じ姿勢を続けていても痛みが出やすく、変形が進んで神経を圧迫するようになると、足のしびれが加わることもあります。
治療法
痛み止めや湿布で症状を和らげながら、リハビリテーションで腰周りの筋力を維持し、柔軟性を保ち、姿勢を整えていくのが治療の中心になります。加齢による変化そのものを元に戻すことはできませんが、「年だから仕方ない」と諦める必要もありません。筋力をしっかり維持して腰への負担を減らす生活を続けることで、痛みと上手に付き合いながら活動的な毎日を送ることは十分に可能です。
日常生活での注意
何より大切なのは、体幹の筋力を落とさないことです。ウォーキングや水中ウォーキングなど、腰に無理のかからない運動を日課にすることをおすすめします。体重の増加は腰への負担に直結するため、適正体重を意識することも大きな助けになります。朝のこわばりが気になる方は、起き上がる前にベッドの上で膝を軽く抱えるストレッチをしてみてください。それだけで動き出しがぐっと楽になることがあります。
腰椎圧迫骨折
腰椎圧迫骨折は、背骨の一つひとつ(椎体)が押しつぶされるように折れてしまう骨折です。骨粗鬆症で骨がもろくなった高齢の方、とりわけ女性に多く発生します。
原因
骨粗鬆症によって骨の強度が落ちた状態では、尻もちをつく、重いものを持ち上げる、くしゃみをするといったちょっとした動作でも骨折が起こり得ます。なかには明確なきっかけがないまま、いつの間にか折れていた(いわゆる「いつのまにか骨折」)というケースも珍しくありません。
症状
背中や腰に突然強い痛みが出て、寝返りが打てない、起き上がれないほどの状態になることがあります。骨折が複数箇所で起こると、背中が丸くなったり(亀背)身長が縮んだりといった変化が目に見えて現れるようになります。
治療法
基本的にはコルセットで固定して安静を保ちながら、痛み止めで症状をコントロールし、骨がつくのを待ちます。骨が安定するまでにはおおむね2〜3ヶ月ほどかかります。骨粗鬆症が背景にある方がほとんどですので、再骨折を防ぐために骨粗鬆症の治療も並行して進めることが非常に重要です。
痛みが落ち着いてきたら、安静による筋力低下を防ぐためにリハビリテーションを少しずつ始めていきます。重症の場合には専門の医療機関をご紹介し、手術的な治療を検討することもあります。
骨粗鬆症(骨粗しょう症)
骨粗鬆症は、骨の密度が低下して骨がもろくなり、ちょっとしたことで骨折しやすくなる病気です。特に閉経後の女性に多く見られ、腰椎圧迫骨折や大腿骨骨折など、生活に大きな影響を及ぼす骨折の原因になります。
原因
加齢と、閉経に伴う女性ホルモンの減少が最も大きな要因です。このほかにも、カルシウムやビタミンDの不足、運動不足、過度の飲酒・喫煙、やせ型の体型、ステロイド薬の長期使用など、さまざまな要因が骨密度の低下に関わっています。
症状
厄介なのは、骨密度が下がっていても自覚症状がほとんどないことです。多くの方が骨折をきっかけに初めて骨粗鬆症を指摘されます。「最近背中が丸くなってきた」「身長が縮んだ気がする」と感じたら、それはすでに背骨の圧迫骨折が起きているサインかもしれません。
治療法
骨密度を改善する薬やカルシウム・ビタミンDの補充が治療の柱となります。当院では骨密度検査を実施し、患者様の年齢や骨密度の状態に合わせて最適な治療薬を選択しています。詳しくは「骨粗鬆症治療」のページもご覧ください。
予防
骨粗鬆症は「なってから治す」よりも「ならないように備える」ことが何より大切な病気です。普段の食事でカルシウム(乳製品、小魚、大豆製品)やビタミンD(魚、きのこ類)を意識的に摂ること、ウォーキングなどの運動を続けて骨に適度な刺激を与えることが、骨密度の維持に役立ちます。
特に閉経後の女性や、ご家族に骨粗鬆症の方がいる場合は、まだ症状がないうちに一度骨密度検査を受けておくことを強くおすすめします。早めに現状を知っておくことが、将来の骨折予防への第一歩になります。
よくあるご質問
Q1. 腰痛はどのくらいで治りますか?
A. 原因や程度によって異なります。ぎっくり腰は数日〜1週間程度、ヘルニアは数週間〜数ヶ月、慢性腰痛は継続的な治療が必要です。
Q2. コルセットはずっと着けていた方がいいですか?
A. 痛みが強い時期は有効ですが、ずっと着けていると筋力が弱くなります。症状が落ち着いたら、徐々に外す時間を増やしましょう。
Q3. 腰痛の時は安静にすべきですか?
A. 激しい痛みがある時は安静が必要ですが、長期の安静は逆効果です。痛みが落ち着いたら、できるだけ普通の生活に戻すことが大切です。
Q4. 腰痛は治りますか?
A. 多くの腰痛は適切な治療で改善します。ただし、加齢による変化(椎間板の変性など)を元に戻すことはできません。痛みをコントロールし、上手に付き合っていく方法を一緒に考えましょう。
Q5. 運動はしない方がいいですか?
A. 激しい痛みがある時は休む必要がありますが、痛みが落ち着いたら適度な運動が大切です。運動で筋力をつけることが腰痛予防になります。
Q6. MRI検査は必ず必要ですか?
A. すべての腰痛にMRIが必要なわけではありません。診察とレントゲンで診断できることも多くあります。必要な場合は連携医療機関をご紹介します。
Q7. 整体やマッサージに行ってもいいですか?
A. まずは整形外科で診断を受けることをお勧めします。原因によっては、マッサージが逆効果になることもあります。
腰・背中の症状でお悩みの方へ
腰痛は「国民病」と呼ばれるほど身近な症状ですが、その原因は一人ひとりまったく違います。「年だから仕方ない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。原因を正しく突き止めて適切な治療を行えば、多くの腰痛は改善が可能です。
当院では、患者様の症状や生活スタイルに合わせて、飲み薬、注射、リハビリテーションなどを組み合わせた治療をご提案しています。
痛みを我慢しながらの毎日を続ける必要はありません。つらい症状を抱えている方は、どうぞお気軽にご来院ください。
